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ぼくりりのアルバムの歌詞の意味[Water boarding -Noah’s Ark edition-]編

Noah's Ark

「Water boarding」は、2016年に出されたぼくりりのシングル(EP)「ディストピア 」に収録されていた曲です。


このアルバムでは同じ曲が「 -Noah’s Ark edition -」として歌詞が少し書き加えられています。

 

 

この「Water Boarding」、「ディストピア」では「1984」の主人公が受ける水責めの拷問を示唆していますが、
アルバム「ノアズアーク」の中に入ると、世界を終わらせる大洪水を意味するようになる、という二重構造になっています。


そのためアルバムでは歌詞が書き加えられている箇所があるのです。

 

(「ディストピア」には、Newspeak, Noiseful World, Water boarding, sub/objectiveリミックスの4曲が収録されています。「ノアズアーク」と被るのはNewspeak, Noiseful World, Water boardingの3曲です。

なので「ノアズアーク」1枚持ってればいいかな。)


この曲は重いし苦しいけど、ファルセットや多重録音が効いてて美しい曲に仕上がってます。

(補足。楽曲としての「Water Boarding」が初めて収録された「ディストピア」では、
リードトラックの「Newspeak」がジョージ・オーウェルの小説「1984」に登場する架空の言語の引用、
主語が「彼」なので、EP「ディストピア」の中では「Water Boarding」は「1984年」の主人公がストーリーの中で受ける拷問を示唆。)


水が落ちる
密室 全てmissing

ここは、主人公目線です。(試聴できる箇所と一緒)
拷問を受ける密室で、水が足元からひたひたと迫って来る中、必死で掴んだ天井の鉄格子の鉄の匂いと、犯した罪、全てを失うことへの後悔など様々な考えが頭を巡り苦しむ様子が描かれています。
どうあがいても水は上がってきて、タイムリミットは刻々と迫ってきます。
切迫した状況の中、「みっしつ」「みっしんぐ」でリズムを取っています。

祈りを 手を伸ばしても
塞がらない穴から流れていく

神に祈っても、手のひらにすくった水がこぼれてしまうようにその声は届きません。


命の質量を削り出す water flow
腰まで浸した流体は死の足音を響かせる

文字だけで映像的なイメージが思い浮かぶ一節です。
水の中にものを入れると、入れた物体の質量の分、水位が上がる
それを「命の質量を削り出す」と表現しています。
水位は腰まで上がり、死がそこまで来ていることをひしひしと感じさせますが、
ここはそれをメタ目線で描き、「かげぼうし」「てつごうし」などでリズムを取っています。


この「Water Boarding」、「ディストピア」では「1984」の主人公が受ける水責めの拷問を示唆していますが、
アルバム「ノアズアーク」の中に入ると、世界を終わらせる大洪水を意味するようになります。


最終章が幕を開け水が全てを無機物にしてしまう

「最終章」とは、ノアの方舟の物語の中の大洪水、つまり堕落した人類の終わりを意味します。
ここ、「予告編」から繋がっています。

ディストピア」と違って、このアルバムの中で「Water Boarding」は大洪水、それを受けるのは、「彼」一人ではなく全人類。
「水が全てを無機物にしてしまう」からです。

この「ディストピア」と「ノアズアーク」の二重構造。
着眼点や構成力に卓越したものがありますね。


ノアの方舟」と言えばキリスト教・聖書のお話で、「祈り」などのワードが出てきますが、この曲が提示しているのはキリスト教的世界に限ったことではありません。


生まれ落ちた咎の故に消える命
(中略)
生まれ落ちた咎は終に償われずここに残る

ここはインド哲学的な「業(カルマ)」の概念を美しく表現していると思います。(ぼくりりは以前の他の曲ではカルマって用語をそのまま使ってましたが、変えてきたなと)

 


不可逆の砂時計に
意味も分からずに踊らされる

生まれた時から死ぬ事は決まっていて、徐々にその残り時間が少なくなっていきます。
それを「不可逆の砂時計」と端的に表現しています。
残り時間は徐々に少なくなっていくのに、それを忘れて何となく生きてしまっていること
世界が何者かによって動かされている気がするのに、その「何か」がわからなくてもやもやする状態を
「意味もわからず踊らされる」と表現しています。


Suchmosも「踊らされる」は歌にしてて、
「お前の基準に踊らされたくない/踊らせるなら俺がやりたい(Arlight/THE BAY)」って言っていますね。スタイルは違うけど結構言ってることが共通しているものがあるように思います。

 

Alright

Alright

 

で、「Water Boarding」に
「-Noah’s Ark edition -」で書き加えられている歌詞。


 命の終わりさえ現実を持たなくて 幕を閉じる一瞬に光が 救いの光が

ディストピア」版の「Water Boarding」になかった
救いの光が加えられています。
ノアズアーク」には救済が用意されているということ。

でも、「彼」に見えた救いの光は幻想でした。


絶望に射す光 救いの手  悪夢は覚めて笑い出す 

(ここに水に溺れて行く効果音)


浅はかな夢 変わらない常 (中略)幕を閉じる一瞬が最初で最後の生

これでもか、というほど苦しい場面が続きます。


命が終わる一瞬だけ生きていることを実感できる、そんな人生送りたいですか?
と問いかけているようです。

また、こちらも書き加えられています。

 

 

ここの歌詞は、限りある命を、「砂時計」というメタファーに託した美しい表現です。


不可逆の砂時計は
命溶かす前に裏返される


砂時計は命が終える寸前に神の手によって裏返され、そこに生まれ落ちた咎(業=カルマ)が残る

 

生まれ落ちた咎は終に償われず
ここに残る

不可逆だったはずの砂時計が裏返されると、新しくまた命を刻み始める(輪廻転生)が、
しかしそれにも必ず終わりがある。
命とはその繰り返しである。

思わず唸ってしまったフレーズ。
本人も多分気に入ってると思う。


次「Newspeak」。次も難解系です。でもSuchmosと言ってること被ってて面白いよ。

 

Noah's Ark

Noah's Ark

 

 

 

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